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「ハムレット」、「夏の夜の夢」ボーダーガーデンの植物の手引き
シェークスピアの劇には、さまざまな植物が引用されて出てきます。それがどのような樹木・草花であるかを知ると、より一層、物語の情景やセリフが興味深く、理解できるでしょう。
物語をテーマにしたガーデンは、次の2つです。


◆ 「ハムレット」ボーダー

◆ 「夏の夜の夢」ボーダー



◆ 「ハムレット」ボーダー


物語の筋を追って説明します。


「ハムレット Hamlet」は、デンマーク王国の王子ハムレットが主人公。
デンマーク国王が急死する。王の弟クローディアスは王妃と結婚し、デンマーク王の座に就く。父王の死と母の早い再婚とで憂いに沈む王子ハムレットは、廷臣から父の亡霊が城壁に現れることを知る。
亡霊に会ったハムレットは、父の死はクローデイアスによる毒殺だったと告げられる。 復讐を誓ったハムレットは狂気を装う。王と王妃はハムレットの変貌ぶりに憂慮するが、内大臣ポローニアスは、その原因を娘オフィーリアへの実らぬ恋ゆえだと察する。オフィーリアを無下に扱うハムレット、悲しむオフィーリア。オフィーリアの兄、レアティーズは、妹を慰めて言う。

レアティーズ「ハムレットさまのことだが、そのお気持ちは、結局一時の浮気心、若さゆえの気まぐれ。いわば春に咲くスミレ の花。早く咲くが萎るるも早い。美しくはあるが、すぐに萎む。香も慰みもほんの束の間、ただそれだけだ。


※スミレは早春の花、清純性とはかなさの象徴として使われる。ギリシャ神話ではゼウスに愛され た美女イオがスミレに変じた、と言われている。



やがて、王が父を暗殺したという確証をつかんだハムレットだが、誤って内大臣ポローニアスを殺害してしまう。
娘オフィーリアは悲しみのあまり狂ってしまう。狂ったオフィーリアを憐れんで、兄レアティーズは言う、

レアティーズ「五月のバラ よ。いとおしい乙女、やさしい妹、可愛いオフィーリヤよ!」


※五月のバラよ、とハムレットの狂気の嵐にあって狂うオフィリアを早咲きのバラにたとえて、あ えなくも散る清純な美しさをいとおしむ哀惜の情を表している。



オフィーリアは、歌いながら言う、
オフィーリア「これがローズマリー 、思い出の花。お願いだから、いつまでも忘れないで。それからこれがパンジー 、物思いの花。」


※ローズマリー、春から夏にかけて青色の小さな花が咲く。芳香性があり、昔から薬用、香料、 香辛料などとして使われていた。ローズマリーは一年中香りと緑を保つので、「思い出」「節操」 「変わらぬ愛」を表わす植物として文学に登場する。

※パンジーは、花の形を考える人の姿に見立てて「パンセ・pansee」(思い、思考)と呼ぶこと に由来する。父の不慮の死を悲しむ心情と、愛する人への思いを野の花に託している。


オフィーリア「(王に対し)あなたには、フェンネル の花とオダマキ
(妃に対し)あなたには、ヘンルーダ 、私にも少しとっておかなければ。これは安 息日の恵の草ともいうのよ。あなたと私は別の意味で身に着けるの。それからこれがデージー 。あなたには、スミレをあげたいのだけれど、お父様が亡くなった日にみんな萎れてしまった。幸せなご最期だったというけれど。」

※フェンネル、黄色の小花が枝先に多数咲く。芳香性で、古代ローマ時代から野菜、薬用、 香辛料として栽培されてきた。フェンネルは、蛇が好むとも信じられていたから、ハム レットの父王を噛み殺した蛇にふさわしい、という意味も込められている、と言われて いる。

※オダマキ、ラテン語の「鳩」を意味するcolumbaからきており、逆さに咲いた花の形が 鳩に似ているから。シェイクスピアの作品では、オダマキは、忘恩、不義、といった否 定的意味を持つ花、としても使われている。

※ヘンルーダ、古くから薬用、香味料として使用されてきたが、匂いがきつく、苦味が強 烈。英語名のルーは、「悔悟」を意味する語と同じで、「悔悟」は神の恵みによってもた らされるということから、「恵みの草」という名称が生まれたと言われる。

※デージー、ヒナギクは、英語名の語源がDay’s eye(日の目、すなわち太陽)、豊かな 生命力をもつ、春の花、清純な愛の花。

※スミレ。前出



やがて、オフィーリアは小川に落ちて溺れて死んでしまう。王妃はレアティーズに、オフィーリアの最期の様子を語る。

王妃「小川のほとりに柳の木が斜めに立ち、白い葉裏を流れに映しているところに、 オフィーリアが来ました。手には、センノウ イラクサ デージー 、 それに口さがない羊飼いは卑しい名で呼び、清純な乙女たちは死人の指と名付けてい るシラン の花でこしらえた花冠を手に持って。
あの子が柳の枝にその花冠を掛けようとよじ登ったとたん、無情にも、折れて、花もろともに、小川にまっさかさま。


※ヤナギは、悲哀を表す。捕囚のユダヤの女たちがバビロンの川縁のヤナギに竪琴をかけて 泣いた故事に基づくと言われる。

※センノウは、「落胆」を表す。

※イラクサは、刺毛をもつ無用有害な雑草で、シェイクスピアの作品では、人を悩まし苦 しめるものとして使われている。

※デージー。前出

※シランは、イギリスの森や草地に自生するラン科の植物。根の形が楕円形の塊根状であ ることから「死人の指」とも呼ばれた。



オフィーリアの葬儀。兄レアティーズは悲しみ嘆く。

レアティーズ「土の中へ遺骸を入れい。浄い美しい妹のからだから、スミレ の花が咲 きいでよ!」


※スミレ。前出


レアティーズは、父と妹の仇を取ろうと怒りを燃やす。王は、レアティーズと結託し、毒剣と毒入りの酒を用意して、ハムレットとレアティーズを剣術試合に招き殺そうとする。
しかし、王妃が毒入りと知らずに酒を飲んで死ぬ。
また、ハムレットとレアティーズ両者とも、試合中に毒剣で傷を負う。死んでゆくレアティーズから王のたくらみを聞かされたハムレットは、王を殺して復讐を果たした後、事の顛末を語り伝えてくれるよう親友ホレイショーに言い残して死んでゆく。


◆ 「夏の夜の夢」ボーダー


物語の筋を追って説明します。

「夏の夜の夢 A Midsummer Night’s Dream」は、アテネの街と近郊の森が舞台。
アテネの公爵シーシアスの宮殿では、公爵とアマゾンの女王ヒポリタとの結婚式が間近に迫り、そのお祝いが、華やかに、楽しいお祭り騒ぎをもって行われようとしている。
そこへ、ハーミアの父イージアスが、ハーミア、ライサンダー(ハーミアと恋仲の若者)、デミートリアス(父イージアスが結婚相手として決めた若者)を伴って登場し、公爵に、娘がデミートリアスと結婚しない場合は、アテネの法律に従って、死刑か修道院に入れることを願い出る。
公爵は、ハーミアに、自らの結婚式が行われる4日後の新月の日までに、覚悟を決めておくように言い渡す。
ライサンダーは、ハーミアと2人になると、ハーミヤに、明日の晩、町の郊外の森で待ち合わせて、叔母がいる田舎に行って結婚しようと提案する。
そこへ、ハーミアの幼友達・ヘレナがやってくる。ヘレナはデミートリアスを愛しているが、デミートリアスはハーミヤに憧れている。ハーミヤは、デミートリアスを嫌えば嫌うほどつきまとわれて困っている、と言う。
ヘレナはハーミヤを羨ましく思い、言う。

ヘレナ「デミートリアスは貴女のお美しいのに憧れています。ああ、羨ましい貴女の 美しさ! 貴女の目は北極星のよう、貴女の声の調は、麦が青々と延びて、サンザシ が咲き始める頃に羊飼いの聞く雲雀の声よりも可愛らしい。」


※サンザシ、花言葉は「希望」。イギリスには広く自生し、牧場、農場の境界や生け垣などにも利 用されている。サンザシは、5月の木、五月祭(メイデー)には、広場に五月柱(メイポール) を立てて、春とともによみがえった樹霊を祝い、豊饒繁栄を願った。その五月柱のてっぺんに 立てられたのがサンザシの枝であった。


ハーミヤは、ヘレナに、夜に町を抜け出して、ライサンダーと森で会って、駆け落ちする、と打ち明ける。

ハーミヤ「そしてあの森で、よく貴女とわたしとが、淡い色のサクラソウ の花床に寝転んで、 お互いに心ゆくまで内密話をしあったでしょう、あそこで、わたしライサンダ −さんと落ち合うことになっているの。」


※サクラソウの花言葉は「若さ」「悲しさ」。イギリスでは、冬の終りに「春遠からじ」を告げる野 の花で、春の先駆けとして、喜びと期待をもたらし、人々が愛着を覚えた野の花である。
ハーミヤから打ち明けられたヘレナは、2人の駆け落ちをデミートリアスに知らせ、自身も森に行く。


【場面が変わって】


シーシアスとヒポリタとの結婚式で芝居をするために、6人の職人が1人(クインス)の家に集まっている。6人は、役割を決め、練習のために次の夜、森で集まることにする。
職人たちは、巨木のカシワの木のところで集まり、芝居の練習をすることになった。

クインス「公爵様のカシワ の処だぜえ、出会うのは。」


※カシワ、オークは、高さ25メートルにもなり樹姿雄大で、「木の王者」とされてきた。シェイクス ピアの生家もオーク材の建造物で、建築後500年たっても立派に保存されている。



【森では】


妖精王オーベロンと女王タイターニアが、女王が小姓にした可愛い子を巡ってけんかを し、仲違いしていた。
オーベロンは、妖精のパックを呼んで、女王にまじないをかけるために、パンジーの花 を採ってくるように命ずる。

オーベロン「其のキューピッドの放した矢は、西国の或る小さい草の花に落ちて、乳白であった其の花が、それからは、恋の痛手で、赤紫色になったんで、娘たちはあの花のことを「ぶしょうな恋の花 」と呼んでいる。あの花を取ってきてくれ。あの花の液を寝ている者の瞼に塗ると、男でも、女でも、必ず目の開いた其の途端に見た物に見境も無くほれっちまう。」


※ぶしょうな恋の花、パンジーのこと。パンジーには恋薬の効能があると言われてきた。


パックがパンジーの花を採ってくると、オーベロンは花の汁をぬるため、女王タイター ニアの寝ている所へ行く。そして、パックにも花を少し分け与え、デミートリアスの目に塗り、ヘレナに惚れるように仕向けさせる。
しかし、パックは間違えてライサンダーの目に塗ってしまう。

オーベロン「この森の中に野生のタイム の咲き乱れている堤があるが、あそこにはオクス リップ も咲いておれば、スミレも風に揺れ、甘美なヒルガオ や、美しい香りのマスクローズ や、野バラ がその上を天蓋のようにおおっている。タイターニアは、夜は 時々、あの花の中で面白い踊りに慰められて眠入ってしまう。


※タイムは、芳香ハーブ、小さい花が茎頂あるいは葉腋につく。タイムはギリシャ語で「香る」 という意味で、ふれると香気がただよう。甘い香りと花蜜がミツバチを呼ぶ。

※オクスリップ。サクラソウ科プリムラ属の多年草

※スミレは早春の花、清純性とはかなさの象徴として使われる。ギリシャ神話ではゼウスに愛 された美女イオがスミレに変じた、と言われている。

※ヒルガオは、つる性の多年草、ラッパ状の花が咲き、花の筒には蜜がある

※マスクローズ。地中海原産のバラ

※野バラ、エグラインタインバラ、ヨーロッパ、北アフリカ、西アジアに分布する。シェーク スピアの作品では、バラ(rose)とは別に「エグラインタイン」とされている。



一方、森のサンザシの茂みのところで、6人の職人が劇のケイコをしているが、パッ クはいたずらして職人のボトムの頭をロバに変えてしまう。ボトムのロバ頭を見て、5人の職人は、「化け物がでた」と言って逃げ出してしまう。
花の汁を塗られて寝ていたタイターニアは目をさまして、ロバ頭のボトムを見て惚れてしまう。そして妖精たちを呼んで、ボトムをもてなすように言う。

タイターニア「此の方に善くお仕えしてね。お出掛けの時には、先に立って、跳ね回っ てお目にかけるのよ。お食事には、木苺 や紫色の葡萄 や緑色の無花果 桑の 実 を取ってきてさしあげて。」


※杏、中国原産でペルシャ、アルメニアを経てヨーロッパに伝わった。

※木苺、キイチゴ属(Rubus)の属名は「赤い」という意味で、実の赤さからついた。

※葡萄は、古来、豊饒と平和の象徴とされ、シェイクスピアの作品でも数多く登場する。

※無花果、アラビア半島が原産。平和、豊饒のシンボルとされてきた。

※桑の実は、16世紀イギリスに養蚕のため導入されたが、養蚕用には適しないクロミグワであっ たため、養蚕は成功せず、庭園を飾る鑑賞用樹木として用いられた、と言われている。シェイ クスピアの生家にもクワの木が植えられており、おいしい木の実として好んだようである。



【森の別の場所では】


パックが森で寝ていたライサンダーに、間違えて花の汁を塗ってしまった。ライサンダーは、森に追いかけてきたヘレナに起こされたため、ヘレナに惚れてしまう。
オーベロンは、4人の関係を修復するため、疲れて寝ているデミートリアスに花の汁で魔法をかけ、パックにヘレナを急いで連れてくるように命じる。
パックがヘレナを探しに行こうとすると、ライサンダーとヘレナが言いあいながらやってきて、デミートリアスが目を覚ます。そして眼の前にいるヘレナに惚れてしまう。
ライサンダーは、ハーミアに、自分が愛しているのはヘレナであってハーミアではない、と言って口汚くののしる。

ライサンダー「 行っちまえ、小人。このチビめ、ミチヤナギ でも食べたんだろう。数珠玉 ドングリ め。」


※ミチヤナギ。イギリスでは、これを食べると成長が止まる、という俗信があった。小柄な 女性ハーミアを口汚くののしるセリフに使っている。

※数珠玉、小さな玉がなる雑草。

※ドングリ、オークの実


デミートリアスとライサンダーは、決闘して恋の決着をつけようとする。
オーベロンは、パックに命じて、ライサンダーにかかった魔法を解かせ、ハーミアとの関係を元通りにする。そして、デミートリアスはヘレナに求愛し、ハーミアの父イージアスに頼んで娘の死刑を取りやめるよう説得することにする。


【森では】


タイターニアが、ロバ頭のボトムに惚れて、頬をなでたり、耳にキスしたりして戯れている。

タイターニア「こんな風にヒルガオ と美しいスイカズラ とがやさしく絡み合い、このように女蔦 は、楡の木 の荒々しい枝にまとわりつくのだわ。ああ、私はあなたを愛している!夢中になって愛しているわ!」


※ヒルガオ、前出

※スイカズラ、つる性低木。芳香の強いラッパ状の花が枝先につき、5〜7月に開花し、蜜があ る。樹木に強く絡みつく性質を持ち、官能的なイメージが強烈な、堅く結ばれた不変の愛のシ ンボルである。

※蔦、ツタは強い植物で、これに絡まれた植物は枯死する場合もある。

※楡、シェイクスピアが生まれ育ったストラトフォードは、ニレの木が美しく茂る町であったと 言われている。イギリスでは、男はニレ、女はツタにたとえる伝統的イメージがあった、と言 われている。


オーベロンはタイターニアが気の毒になり、タイターニアにかかった魔法を解いて、2人は和解する。そして、ボトムのロバ頭もとってやる。

オーベロン「今夜の出来事を只一場の苦しい騒がしい夢であったとばかり思うよう に。先ず、ハムレット、解いて(と、草でタイターニアの両瞼を撫でつつ) もとのおまえになれ、 もとのように見えるようになれ、 ダイアナの蕾 こそキューピッドの花 にまさる力と 恵みある効力あり。」


※ダイアナの蕾は、イタリアニンジンボクといわれている。ギリシャ神話に、豊饒の女神 デメテルが貞操を守るためにこの木の葉を寝室に撒いたとする話がある。古代ローマ、 中世では、「貞操の木」といえば、この植物である。

※ キューピッドの花、パンジーのこと。


これで2組の男女、妖精の王と女王は円満な関係になり、6人の職人たちもシーシアスとヒッポリタの結婚式で無事に劇を行うことになった。

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